八重山のホタル2 オオシママドボタル
石垣島には、アカホタルモドキ・イリオモテボタル・オオシママドボタル・キイロスジボタル・キベリクシヒゲボタル・サキシママドボタル・ムナグロボタル・ヤエヤマヒメボタル・ヨナグニホタルモドキという9種のホタルが棲息していますが、なかには発光しないホタルとか、ホタルの格好(ヘイケボタルやゲンジボタルのようなホタルらしい姿)をしていないものも居るので、それらを除いた次の三種のホタルがホタルらしくて親しみやすいでしょう。

沖縄に棲息するホタル(ベニボタル科のもの・発光しないものを除く)
科    名 属 名 種     名 和     名
Lampyridae ホタル科 Curtos costipennis   キイロスジボタル
  okinawanus オキナワスジボタル
Lampyridae ホタル科 Luciola owadai M.Sato et Kimura クメジマボタル
filiformis yayeyamana ヤエヤマヒメボタル
  Lychnuris abdominalis サキシママドボタル
  atripennis オオシママドボタル
  matsumurai kumejimensis クメジママドボタル
  matsumurai matsumurai オキナワマドボタル
  miyako ミヤコマドボタル

ヤエヤマヒメボタル(八重山姫蛍)・キイロスジボタル(黄色筋蛍)・オオシママドボタル(大島窓蛍)の三種で、八重山の三種のホタルはすべて陸棲ホタルです。
それぞれに発光期(成虫期)が異なり、ヤエヤマヒメボタルは3月中旬〜5月下旬、キイロスジボタルは極寒期を除くほぼ通年、オオシママドボタルは9月中旬〜翌年1月中旬です。
オオシママドボタルの雌
産卵と交尾の様子です
オオシママドボタルの軌跡 緑の強い大きな光です

日本最大の冬のホタル「オオシママドボタル」 夜の石垣島の森の中で光ります

  
オオシママドボタルの雄は「ズングリムックリ」型        これが幼虫、4〜6cmもあります


オオシママドボタル(コウチュウ目 ホタル科 Luciola属)
Luciola atripennis ooshima

オオシママドボタルは「陸棲」で、川のタニシならぬ陸の「マイマイ(カタツムリ)」を食べて成長する種類で、内地のゲンジボタルやヘイケボタルのように水辺に棲むことはなく山間部に棲んでいます。「陸棲ホタル」と言えば聞きなれないでしょうが、実は、世界的にはゲンジボタルやヘイケボタルのような水棲ホタルのほうが珍しいのです。

八重山のホタルの幼虫の餌としてのマイマイ(カタツムリ)は腐葉土化した落ち葉を餌としています。
つまり、八重山のホタルが成長するためには、光の少ない樹林の下で適度な湿り気があり、下草が繁茂した湿った草むらが必要ということです。

このホタルは、日本のホタルの中でもっとも大きな種類で、9月〜翌1月の間、限られたところで観ることができます。僕の観察したところでは、この数年の間で一番早く石垣島でオオシママドボタルの成虫が観れたのは9月3日、一番遅くまで成虫が観れたのは1月28日です。
雄のホタルの大きさは、1.5〜2cm、飛ぶときはほとんど点滅せず、緑色の明るい光を放って悠々と飛翔していきます。

僕は、このホタルと「ヤエヤマヒメボタル」を卵から越年飼育したことがあり、その生態にはとっても詳しいのです(*^_^*)

   僕が使った飼育箱と飼育室

石垣島では9月中旬から1月下旬まで、このホタルを観ることができ、その棲息地は、世界中で石垣島・西表島と黒島の一部という局地的な場所に住む珍しいホタルです。最近では竹富島にも居るという話を聞いていますが、僕自身はまだ確認していません。

このオオシママドボタルが、どうして世界中で石垣島・西表島と黒島の一部という限られた地域にしか棲息していないのかということについては、文献にもあまり触れられていませんが、僕は「雌が飛べない」ことが大きく影響していると考えています。飛べないから分布が広がり難いのだと思っています。
また、こんな日本の南の端っこの八重山にしか居ないホタルのことですから、その研究も充分には進んでおらず、まだまだ未知の部分が多い謎のホタルです。
※深石隆司さんという八重山に住むアマチュア昆虫研究家が「沖縄のホタル」という本(発行元−沖縄出版)を出版しています。とても分かりやすくていい本です

オオシママドボタルの一生

飼育日記から

1.産卵  
雌には退化した羽しかなく飛べない
左の赤いのが雌の成体で、ちょっと目にはホタルとは思えない

2.幼虫期  
幼虫期にもお尻が発光する
とても幻想的な光を放ち、シャクトリ虫のような動作で歩く

3.食餌  
夜になると枯葉の下などから這い出してきてマイマイ(カタツムリ)に一斉
に頭を突っ込んで食餌

4.脱皮  
成虫になるまでに5〜8回ほど脱皮を繰り返し、徐々に成長する

5.サナギ直前  
サナギになる直前の雌(左)と雄(右)
この頃にはこんなに大きさが違う

雌の幼虫は約5〜6cmもある

6.いよいよサナギに  
いよいよ蛹化だ
この時期が成虫になる最終期

上の黒いのは抜け殻、下がサナギ

7.サナギと(メス)  
右がサナギ サナギは薄紅色

左は雌の成虫で黄色の強い赤

8.雄の成虫(裏側)  
ほとんど1年かかってやっと成虫だ
裏側から見ると、光る部分がよく分かる
成虫になってからの寿命は2週間程
  印の写真をクリックすれば拡大します

オオシママドボタルの雌はおよそホタルらしくなく、まったく飛べず、枯葉の下などにじっとしているので目立たない。僕自身も自分が飼育して孵化させた雌以外に自然の中で雌を観たことは実は一度しかないのです。ほとんどの人は雌を観たことがなく、雄と同じ形で飛んでいると思い込んでいるため、「飛んでいるホタルの光が急にストーンと下に落ちるのは、雄・雌が出会って交尾するためだ」というような迷信が生まれます。これも案外知られていないことですが、内地のホタルを含め、発光しながら飛翔しているのは殆ど雄だけで、ホタルの発光は雌の気を引くための生殖行動の一環なのです。

雌はフェロモンを出して、その匂いで雄を誘引すると考えられていますが、雌のフェロモンの匂いに非常に近いものがあります。それは「バニラエッセンス」で、試してみたところ、飛遊する雄の半数以上が雌のフェロモンと間違えてバニラエッセンスに集まってきたことがあります。

石垣島でも開発が進むにつれて徐々に非市街部(山間部や雑木林・下草の多い藪)でしか観られなくなり、僕が知っているこの10年近くの間でさえ、確実かつ急激にその個体数が減ってきています。半減したといっても過言ではないと思います。
僕は、オオシママドボタルのシーズンにはおよそ50回以上、ホタルやマイマイを探して石垣島の山間部に入りますから、固体数が減っていることに気づくのです。ところが、僕も含めて人間というものは不思議なもので、昔から見慣れたものはいつでも見れる、何処にでも居ると思ってしまうもののようです。

ホタルは本来、人里に住む生物です。八重山に棲息する三種類のホタルのなかでも、このオオシママドボタルは一番、人里の近くに居るので、島に住む人たちは「何処にでも居る」と安易に考えすぎる傾向があるようです。そのうち、ふと気がついたら・・・・・・絶滅寸前ということもあり得るのです。内地のゲンジボタルやヘイケボタルも一昔前には人里の小川に棲息しており、僕が子供のころには市街地でも乱舞していましたが、河川環境の悪化によって今や山奥の清流でしか観られなくなりました。
僕がホタルツアーで案内する都会から来た若い世代のお客さんの多くは「初めてホタルを見る」と言うのです。

沖縄に住む人たちは、貴重な固有種の生物たちに囲まれて暮らしているため、「天然記念物」とか「絶滅危惧種」とか「レッドデーターブック」とかに指定された生物だけには敏感で、それらの指定を受けていない生物を軽視する傾向が特に強いのです。
しかし、そんな指定は官僚や行政サイドが一方的に上から行うもので、沖縄県の発表している棲息分布図なども正確なものではありません。継続調査をしてないからです。本当に記念物指定して保護するのなら、少なくとも毎年2〜3回は調査して何かの手を打たないと保護なんかできるはずがないのです。イリオモテヤマネコやヤンバルクイナだけが沖縄の貴重生物ではないのですからね。
だから、僕は、そんな指定の有無にかかわらず、八重山の固有種動植物は、それを一番良く知る八重山に住む人たち自身が大切に守っていかなければならないものだと思っています。

このホタルが年々減少している最大の要因は、幼虫の餌となるマイマイ(カタツムリ)の減少によるものです。ホタルを飼育しているときに採集に出かけたスポットに近年出かけてみると、あまりのマイマイの減少に驚かされます。八重山も徐々に開発が進み、マイマイの餌となる腐葉や腐葉土を育てる環境(光の少ない樹林の下の適度な湿り気があって下草が繁茂した草むら)が減ってきているのです。
道路の整備も進みました。人が通る道路を整備するのは人間にとっていいことです。道路を整備し、道路脇の下草を刈り取れば綺麗になり、ハブなどの被害も減ります。ところが、下草を刈り取れば確実にその辺りのホタルは減るのです。しかし、人はそんな些細なことにはなかなか気づきません。ホタルと人間が共存するのは不可能なことなのでしょうか?人間は本当に地球の寄生虫なのでしょうか?
「ホタルは自然のバロメーター」という標語があります。いつまでもこの南の楽園八重山に夢のホタルが飛び続ける自然環境が存続することを望みますが、どうしたらホタルと人間が共存できるのでしょう?

最近の研究では、公害の元凶といわれた一酸化窒素(NO)が生物の体内で合成され、これが免疫系や血流調節、神経の情報伝達分子として働くことが実証されており、都市化による生活環境の悪化の影響で生物の体内でのNO合成が阻害されてカタツムリの餌を探す能力が落ちることが報告されました。(1998年のノーベル生理学賞受賞者Furchgott, Murad, Ignarro)
Topix ホタルの.発光の仕組みを完全解明
この世で最も発光効率が高いと言われるホタルの尾部が光る仕組みを、たんぱく質の立体構造レベルで完全に解明することに、理化学研究所と京都大の共同研究チームが成功し、2006年1月16日付の英科学誌「ネイチャー」に発表した。
京大の加藤博章教授を中心とする研究チームは、発光酵素の立体構造の一部を改変し、試験管内で発光色を通常の黄緑からオレンジ、赤に変えることにも成功、将来にウミホタルやホタルイカのように青く光らせることができれば、光の三原色である赤、緑、青が揃う。
ホタルの発光は、発光のもとになるたんぱく質が、この酵素と反応して、発光体になることで起きる。
黄緑に光るには、赤く光るより多くのエネルギーが必要で、ホタルは、発光体の化学エネルギーの約9割を発光エネルギーに変えて光っている。だが、色の決まる仕組みは不明だった。
研究チームは、ゲンジボタルの生体酵素を精製し、たんぱく質と反応させた。反応中の酵素の立体構造を調べた結果、取り込んだ発光体を、かなり緊密に囲んでいる構造であることが分かった。一方、酵素のアミノ酸を一つだけ変えて囲みを緩めると、赤く光るようになった。酵素が、発光体の化学エネルギーを逃がさない構造になっていることが、黄緑色の光を生み出していたのだ。
       
この応用技術が実用化すれば、電気や熱(燃焼)がなくても、たんぱく質などの溶液を混ぜるだけで非常用照明として短時間使えるシステムが実現できることになる。
エネルギーを光に変換すると、熱としてロスが生じやすく、白熱電球の発光効率は1割、蛍光灯は2割、発光ダイオードで3割だ。
しかし、ホタルは9割と極めて高い。ゲンジボタルでは、発光基質と呼ばれるたんぱく質「ルシフェリン」と生体エネルギー源のアデノシン3リン酸(ATP)などに、発光酵素の「ルシフェラーゼ」が作用して光ることは知られていたが、今まで具体的な仕組みは未解明だった。