「地域限定旅行業」という制度は、地域の観光資源の活用を促進することを目的に平成24年に創設された旅行業の種別の中では一番新しい登録種別です。
平成30年1月に施行された改正旅行業法では、着地型旅行の促進をはかるため体験・交流型旅行商品の企画・販売促進に向けたさらなる規制緩和が行われました。
地域限定旅行業は、他の旅行業の種別(第1種、第2種、第3種)と比較すると登録取得のハードルが低い一方、取扱うことができる旅行業務の範囲に制限があります。
地域限定旅行業の業務範囲
企画旅行 | 手配旅行 | 他社実施の募集型企画旅行の受託販売
(代売) |
|||||
募集型 | 受注型 | ||||||
海外 | 国内 | 海外 | 国内 | 海外 | 国内 | ||
地域限定旅行業 | × | △ | × | △ | × | △ | ○ |
○:取扱可
×:取扱不可
△:出発地、目的地、宿泊地及び帰着地が営業所の存する市町村(特別区を含む)、それに隣接する市町村(特別区を含む)及び、観光庁長官の定める区域となる市町村に収まっている旅行商品に限り取扱可
財産的要件 | 人的要件 | 事業目的 |
---|---|---|
基準資産額が100万円以上 |
一つの営業所につき、1名以上の旅行業務取扱管理者の選任 ※専任制緩和の特例あり |
「旅行業法に基づく旅行業」または「旅行業」 |
準備資金に関する要件(財産的基礎)
地域限定旅行業の財産的基礎である基準資産額については、その額が100万円以上あることが、登録の条件です。
この基準資産額は資本金の額ではなく、登録申請書を提出する直近事業年度の貸借対照表(B/S)に記載されている数値から算出することができます。
基準資産額算出時のポイントは、直近決算の貸借対照表の資産の部に計上されている「繰延資産」「営業権」「不良債権」は、基準資産額の算定時には控除することです。
また、基準資産額算出時に控除する営業保証金または弁済業務保証金分担金の額ですが、登録後1年間の旅行者との取引見込額によって以下のように変動します。
登録後1年間の旅行者との取引見込額 | 旅行業協会 | 営業保証金 | 弁済業務保証金 分担金 |
---|---|---|---|
400万円未満 | 未加入 | 15万円 | − |
加 入 | − | 3万円 | |
400万円以上5000万円未満 | 未加入 | 100万円 | − |
加 入 | − | 20万円 | |
5000万円以上2億円未満 | 未加入 | 300万円 | − |
加 入 | − | 60万円 |
1年間の取引見込額が400万円未満と400万円以上では必要となる営業保証金(弁済業務保証金分担金)が違います。
営業保証金制度は、地域限定旅行業者と旅行業務の取引を行った旅行者を保護するための制度ですから、旅行業法では、旅行業者に一定の金額を「営業保証金」として法務局へ供託することが義務付けられています。
一方、旅行業協会へ入会し正会員(保証社員)のなることで、本来の供託義務のある営業保証金の5分の1に当たる額の弁済業務保証金分担金を旅行業協会へ納付し、旅行業協会がこの分担金を一元的に弁済業務保証金として供託することで、地域限定旅行業者が本来供託義務を負っている営業保証金の負担を軽減することができます。
営業保証金(弁済業務保証金分担金)は、旅行者との取引額の増減によって変動します。登録行政庁や旅行業協会は、毎期決算期終了後100日以内に提出される取引額報告書によって取引額の増減を把握します。
供託している営業保証金、納付している弁済業務保証金に不足が生じる場合は、追納する手続きが必要になってきます。
地域限定旅行業の登録事業者の選ぶ旅行業協会旅行業協会には「一般社団法人日本旅行業協会(JATA)」と「一般社団法人全国旅行業協会(ANTA)」の2つの団体があります。旅行業協会へ入会する場合は、弁済業務保証金分担金の他に、入会金・年会費の支払いが必要になり、入会しようとする道府県によっては会員旅行会社よりの推薦が必要になる場合もあります。
人に関する要件
旅行業務取扱管理者
地域限定旅行業者の営業所では、1営業所につき1名以上の、常勤かつ専任で就業する旅行業務取扱管理者を選任することが求められています。旅行業務を担当する従業員が10名以上の大規模な営業所では、2名以上の旅行業務取扱管理者を選任するが求められています。
地域限定旅行業者の営業所については、ある一定の条件を満たしている場合は、1人の旅行業務取扱管理者を選任することで複数の営業所を運営することが可能となっています。
つまり、地域限定旅行業者では、他の旅行業者と異なり専任制の要件が緩和されおり、複数の営業所において旅行業務取扱管理者を兼任させることができるということです。
複数の営業所において旅行業務取扱管理者を兼務できる条件は次の2つの条件を満たしている場合に限定されています
- 営業所間の距離の合計が40キロメートル以下である
- 旅行業務取扱管理者を兼務させようとする複数の営業所の直近事業年度の旅行業務に関する旅行者との取引額の合計が1億円以下である
旅行業務取扱管理者は営業所に常勤かつ専任することが求められているため、他の旅行業者との兼務はできませんが、地域限定旅行業者に限り、上記の2つの条件を満たしている場合は、1人の旅行業務取扱管理者が複数の営業所を兼務することができます。
国内旅行のみの場合の旅行業務取扱管理者
地域限定旅行業者の営業所において選任できる旅行業務取扱管理者は、以下のいずれかの試験の合格者になります。
- 総合旅行業務取扱管理者試験合格者
- 国内旅行業務取扱管理者試験合格者
- 地域限定旅行業務取扱管理者試験合格者
地域限定旅行業務取扱管理者試験では、法令、約款、国内旅行実務の3科目で、着地型旅行事業に関与される管理者の試験のため、航空運送に係る運送約款と利用料金、国内地理等が出題範囲から除外されています。 −地域限定旅行業務取扱管理者試験の実施団体は、観光庁−
総合旅行業務取扱管理者試験は日本旅行業協会(JATA)が、国内旅行業務取扱管理者試験は全国旅行業協会(ANTA)が実施団体ですが、地域限定旅行業務取扱管理者試験は観光庁が実施団体になるため、受験願書入手、願書の提出は、観光庁が窓口になります。
地域限定旅行業務取扱管理者試験の詳細は、観光庁のホームページを参照してください。
欠格事由
地域限定旅行業の登録を取得する際、申請者や旅行業務取扱管理者が欠格事由に該当すると登録することはできません。
ここでいう申請者とは、個人事業主はその本人、法人の場合は役員(取締役・監査役)、営業所で選任する旅行業務取扱管理者になります。
- 旅行業法第19条の規定により旅行業若しくは旅行業者代理業の登録を取り消され、又は第37条の規定により旅行サービス手配業の登録を取り消され、その取消しの日から5年を経過していない者(当該登録を取り消された者が法人である場合においては、当該取消しに係る聴聞の期日及び場所の公示の日前60日以内に当該法人の役員であった者で、当該取消しの日から5年を経過していないものを含む。)
- 禁錮以上の刑に処せられ、又はこの法律の規定に違反して罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過していない者
- 暴力団員等(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)第2条第6号に規定する暴力団員又は同号に規定する暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者をいう。)
- 申請前5年以内に旅行業務又は旅行サービス手配業務に関し不正な行為をした者
- 営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者でその法定代理人が上記1.から4.のいずれかに該当するもの
- 旅行業法第6条第1項第6号において規定する、心身の故障により旅行業、旅行業者代理業を適正に遂行することができない者として国土交通省令で定めるもの又は破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
- 法人であって、その役員のうちに上記1.から4.又は6.のいずれかに該当するもの
- 暴力団員等がその事業活動を支配する者
地域限定旅行業者の登録は、主たる営業所を管轄する都道府県が監督官庁(登録行政庁)となるため、それぞれの都道府県によって、登録要件が異なっています。
都道府県(登録行政庁)によって登録要件が異なる
法人で地域限定旅行業の登録をする場合、定款と法人登記簿の事業目的の記載が次のいずれかであることが求められる都道府県があります。
- 「旅行業」
- 「旅行業法に基づく旅行業」
既存の旅行業者、旅行業代理業者、旅行サービス手配業者との商号の重複を認めない都道府県や、地域限定旅行業登録申請書の添付書類として、営業所の賃貸借契約書の写しや、代表者や選任する旅行業務取扱管理者が日本国籍を有しない場合は、在留カードの写しや特別永住者証明書の写しの提出を求める登録行政庁もあります。
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