八重山の冬の海遊び
ウムズナー獲り 八重山の冬の海遊びと言えば「ウムズナー」獲りが筆頭にあげられる。 「ウムズナー」というのは、学名Abdopus aculeatus、和名ウデナガカクレダコ(腕長隠れ蛸)といい、沖縄では、けっこう身近な遠浅の海岸に生息する「イイダコ」に似た小さなタコのことだ。 このウデナガカクレダコは、亜熱帯域から熱帯の西太平洋海域にかけて広く分布していて、遠浅の干潟や砂浜、岩の割れ目を住処としている。 沖縄では、これまでアナダコOctopus oliveriという種類と混同されてきたが、最近の研究で、琉球列島に生息しているものは、アナダコの仲間とは別種のA.aculeatus種であることがわかり、「ウデナガカクレダコ」という和名が新たにつけられた。
ウデナガカクレダコは、沖縄本島ではンヌジグワァ、八重山地方ではウムズナーやムンチャーまたはムーチャンと愛称で呼ばれ、古くから親しまれてきたタコだが、このタコはけっして食用として市場に出回ることはなく、地元の人々が「冬の遊び」として獲り、もっぱら家庭でチャンプルーや煮物として調理される。 タコの警戒心の薄らぐ夜間に、遠浅の砂地の海で干潮時を狙って海が干上がったくるぶしほどの深さのところへ入って獲る。穴に潜ろうとするタコと心理的な駆け引きをしながらじっくり獲るのが面白く、八重山では人気がある冬の海遊びだ。
このウムズナーを茹でてマヨネーズなどをつけてそのまま食べるとなかなか美味い。 ウムズナーは八重山の冬の味覚の代表格だが、生息数が少ないのか魚屋では売っていない。食べたければ自分で自給自足(獲る)するしかないので、僕はこの季節(11月〜翌2月頃)にはよくウムズナー獲りにでかける。
冬場の大潮の夜の海岸はウムズナー獲りの島人(しまんちゅ)たちで賑わう。干潮をはさんだ前後3時間ほどが、この漁の時間で、岸から見ると、沖に点在する島人の懐中電灯の漁火が、なかなか幻想的だ。 ウムズナーだけでなく、ワタリガニや貝、夜行性の小魚なども獲れる。 懐中電灯や蛍光灯ランプなどの灯り・モリや手網などが、この漁の一般的なアイテムだが、ちょっと変わったウムズナーの獲り方をする人もいる。 そのひとつは、煙草の汁を使ったダマシ漁だ。この漁をする人たちは、タコ穴に煙草の吸殻の出し汁(煙草を水に一晩漬けて黒くなった水)を注いで、穴から出てきたやつを獲る。多分、タコがタールやニコチンに酔ってフラフラと巣穴から出てくるのだろう。 膝まで海水に浸かって投げ縄を投げるように長い紐の先に取りつけた仕掛けを遠くに投げ、一定の速さでじわじわと紐を手前に手繰ってくると、仕掛けのイモガイにタコがついてくるという変わった獲り方もある。タコの好物である貝を囮(おとり)に、掴んだ獲物は放さないというタコの習性を最大限に利用した楽しい漁法だ。 瀬戸内海地方にも、大潮の干潮時の夜に潮の引いた海に入って鍬(クワ)一つでアナダコや寝ているベラなどを巣穴ごと掘り起こして獲るというなかなか荒っぽい漁がある。これらは仕事としての漁ではないので、瀬戸内の漁師たちは、こんな遊びの漁のことを総じて「慰み:なぐさみ」と呼ぶのだ。 沖縄でも瀬戸内でも、いったい誰がこんな風変わりな漁法を考えついたのかは知らないが、人はみな、遊びには懸命になるということかもしれない。 ところが変わっても海人(うみんちゅ):漁師たちはみな海が大好きだ。四方を海に囲まれ、一年中、仕事で海に居るくせに、それでも「これでもか!」と言わんばかりに海で遊ぶ、こればかりは内地の漁師も八重山の漁師たちも変わらない。 海というところはとても不思議な魅力に満ちている。 そして、魚たちと人間との知恵比べは、ほとんどの場合、人間様のほうに軍配が上がるのが常である。 娯楽の少ない島だから、こんな単純な海遊びに大人や老人が真剣に興じる。 こういう遊びの世界には、必ず「名人」と呼ばれる人たちがいて、僕の10倍くらいは獲る。でも、そんな名人に限って粗末な道具に粗末な格好をしていて、ちょっと目にはとても「名人」には見えず、普通の人と区別がつかないものだ。 そういう名人たちのバケツを覗いて、山ほど入ったウムズナーを見せられたときは・・・非常に悔しい! 潮干狩り 潮干狩りも八重山の冬の海遊びの代表格で、大潮の日には潮干狩りに興じる人が多い。砂場の潮干狩りの獲物は、アラスジケマンとかマスオガイ、イソハマグリ(磯蛤)などの二枚貝だ。特に、イソハマグリは小さな貝だが、味噌汁などにすると、とてもいい出汁が出て美味いのだ。アラスジケマンとマスオガイはアサリと比べるとかなり大味だ。 (潮干狩りは冬だけでなく、年中できる) イソハマグリ(磯蛤) アラスジケマンとマスオガイ